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金屋町



町屋

うなぎの寝床
ピンポーン、ピンポーン
「はーい」大きな声を上げて玄関へ走り出します。
途中で集金の人と分かれば、
「ちょっと待ってってくださぁーい」と声を張り上げてもどり、財布を持ってまた駆け出します。
お客さんの前に立つ頃には息切れしそうになっていたりして・・・
バタバタと落ち着きのないお嫁さんでした。
これじゃいけない、静かに歩いていかなきゃ、何度も自分にいいきかせていました。
嫁いできた頃の私です。
うなぎの寝床とはよく言ったもので、町屋とはこんなに細長いものかと実感していました。
台所が一番奥にあるので、インターホンがなるとお待たせしては申し訳ないと、
どうしても駆け出してしまうのです。

さすがに20年目ともなると気持ちだけが走っています。
それどころか、インターホンが聞こえなかったりして・・・申し訳ありません。
ひとみ
さまのこ(千本格子)の内側に、障子戸(一部ガラス)がありました。
そのまた内側に、板戸を横にして2枚、柱にそって縦の溝があり、その溝に沿って
上下に開閉していました。その板戸のことを{ひとみ」と言っていました。
夕方日が暮れてくると、障子戸のたかに2枚重ねてある「ひとみ」を1枚1枚下ろすのが
私の仕事になりました。
「ひとみ」を下ろすと、家の中の明かりが外には漏れません。
雨戸が家の内側にあるようなものです。
板戸は重いし、建てつけも悪くなっていたので、ガタガタゴットンと大きな音も立て、
なかなかほねの折れるものでした。
朝は、外が白々と明るくなってくる頃、お姑さんが上げてくれていました。
お姑さんが旅行などで留守のときは、早起きをして上げていました。
朝寝坊をしてしまうと大変、「今やっと起きてきましたよ」とご近所にお知らせしているようで・・
大きな音を立てないようにと小さくなって上げていたものです。

今は、障子戸に替えてアルミサッシの戸がはいっていて、ひとみも外してしまいました。
千本格子のさまのこの外観は変わりませんが、中側はずいぶん変わりました。
今も向かいの家ではひとみを上げ下ろしなさっています、ガタガタという音を聞くと
懐かしく思い出します。
みせ
結婚して間もない頃、物はなんだったか忘れてしまいましたが、夫が
「○○をとってきてくれ」と言うので
「○○ってどこにあるの?」と尋ねると
「○○はみせに置いてある」との答え。
「え、みせ・・・みせって何処のお店・・・?」ぽか〜んとしている私。
「な〜ん、みせちゃ一番前の部屋のことや」と教えてくれました。
その頃はもう何も商売をしていませんでしたが、千本格子(さまのこ)に面した部屋のことを
みせと呼んでいたのです。
今でも家族の間では(みせ)で通じ合っています。